世の中で一番難しいのは、オーケストラに演奏を始めさせることだ。 そのつぎに難しいのは、それを止めることだ。
2023.01.26
「音楽ってなんだろう」⑤
※「このコラムは2003~2005年にかけてメルマガとして配信をしたものです。
当時の私の音楽観を述べたものですが、自分自身の考えはあまり変化していないため、
基本的にそのまま掲載をしています。その視点でお読みください」
■今日のバイブレーション■
世の中で一番難しいのは、オーケストラに演奏を始めさせることだ。
そのつぎに難しいのは、それを止めることだ。
(ハンス・リヒター:ドイツの指揮者)
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●今日のバイブレーションから思い浮かんだ事●
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先日のTVのニュースで、日本のピアノメーカーの苦境が伝えられていた。
追ってきたのは、中国のメーカーである。まず考えられるのが、人件費の安さ
である。前回の張さんの話では、一般的な中国人の年収が日本円で15万円。
10万円もあれば暮らしてゆけるとの話には、目まいがしたが、
おそらく、そのような状況なのだろう。工場で働く人たちのそういった給与が
製造原価に反映されるわけだから、当然販売価格は見事に安いものになる。
「でも、音はどうなの」。楽器であるからには、そういった視点での考察も
かかすことはできない。「で、タッチはどうなの」という声も聴こえてきそう
だ。短いニュース報道のなかでは、そのあたりは知る事はできなかった。
きっとインターネット上ではそういった商品は、もう流通がはじまっている
のだろうから、興味のある方は、直接ご確認ください。
ぼくが興味をもったのは、そのピアノを製造している会社が、すべての従業
員で構成するオーケストラをかかえているという事である。中国四千年の歴史
の中で、中国の伝統芸能の匠を多く輩出していることは想像に難くない。二胡にしろ、
三弦、琵琶、古筝の世界にも、すでに日本で高い評価を得ているアーティストは耳にする。
しかし、今回の報道は西洋音楽を代表するピアノの製造に関わる人たちの話
であるし、尚且つ、西洋楽器によるオーケストラを構成しているのが、
そこの従業員一同だという事である。
民俗音楽独特の、微妙な音程に慣れ親しんだ耳が、平均律で構築される西洋
音楽の世界を、どう捉え、表現してゆくのか、興味はつきない。
音楽家が従業員になるのではない。一般の従業員が音楽家としての要素を、
兼ね備え始めるのである。
例によって、ぼくの事である。舞い上がり過ぎているのかも知れない。
と思いつつ、彼らの創り出すオーケストラの音に触れたいと思う次第。
今日のバイブレーションの解釈は、多様に、できるであろう。
ただ、ぼくは、始めは戸惑いながらも西洋の楽器を手にした彼らが、次第に音
楽の化身となって、一種の桃源郷を醸し出した時、そこにコーダを持ち込む指
揮者の勇気に、喝采は惜しまない。